尾上さん


28歳という年齢は、特別な年齢だと思う


27はまだギリギリ若造という感じがするし、29だと完全なアラサー、28は社会人としても大人としても成熟し、これから人生の大きな岐路に立つ時分だ


晩婚化して結婚する相手との出会いや付き合いはじめの年齢が28だという話を耳にした記憶がある
経済的にも余裕が生まれ、人によっては大きな仕事を得たり車を購入したりする
プロ野球選手のキャリアハイもだいたいこの年齢で、翌年にFAしたりする




尾上さんというバイト先の先輩がいた


俺が学生の頃、20の頃に出会ったのが28歳の尾上さんだ
男性で顔は声優の赤羽根さんに似たそこそこハンサムな彼は、学生の俺と同じ時給で駅のコンビニの朝シフトで働いていた


人当たりがよく、陰気な俺にも気さくに話しかけてくれたので俺の中で唯一バイト先で会話のできる人だった


よくクソ客の愚痴や仕事量について色々話していて、体調が優れないときは率先して仕事をやっておくから上がっていいよと声をかけてくれるナイスガイだった


聞くと彼は求職中で、その繋ぎのためのアルバイトらしかった
短大だか専門卒だったかで、四大だと自分が話すと羨ましがっていた、日本の学歴社会の縮図を初めて直に実感した


尾上さんが初めに勤めていた会社は営業ノルマが厳しく、電話の前に一日中座って日に300と電話をかけると言っていた。結局3年半ほど勤めてまるで業務が変化せず将来性や体調を考慮して転職を考えて結局上手くいかずにアルバイトに落ち着いたらしい


俺は一年半ほどそのコンビニにいて、一年経った辺りで彼は転職先が見つかったとしてバイトを名誉退職していった


退職するときにマネージャーとひと悶着あったらしく、当時かつかつだったシフトの穴埋めに関して何か言われたらしい


最後に俺に挨拶するとき、少し厳しい表情で「君は就活上手くいくといいね」と念をこめて言ってくれた


なんだか少し複雑な気分だった


28だった尾上さんは新しい人生を歩み始めていた


今どうしているだろうか、生きていれば35を越える年齢になっている


彼は自分の幸せを掴みとることができたんだろうか?